祈りの前に佇み: 中澤安奈・カミラ テイラー・宮永愛子
このたびKanda & Oliveiraでは中澤安奈、カミラ・テイラー、宮永愛子によるグループ展「祈りの前に佇み」を2月1日(土)から3月1日(土)まで開催いたします。3人はそれぞれ異なる宗教的・文化的背景を持っており、作品からは強い死生観が表出しています。
中澤は石彫や素木の木彫を、キリスト者として信仰と固く結びつきながら制作しています。制作は、神様に会う準備をしていてその瞬間を待ち望んでいることだと言います。代表的な作品モチーフに見られる衣は人格のことであり、ただその人格は高めるためのものではなく、新しく「着せられる」ものであり、それは自分に頼らなくなるための訓練でもあるといいます。
テイラーはモノクロームの版画や陶芸を制作し続けています。モルモン教の家庭で育ち、その後母親がカルト教祖になったためそのコミュニティから訣別した経験があります。しかしテイラー自身は無神論者だったため、のぞき見をしているような気分だったと振り返ります。作品に出てくる空の椅子は、常に不在の人物を暗示しており、ある意味で、不在の人物とはそこに座るように促されている鑑賞者自身のことだといいます。
宮永はナフタレンや樹脂、ガラスなどを用いた彫刻、インスタレーションで知られています。ナフタレンで作られた形は時間とともに昇華して消えてしまいますが、ガラスケースの中では形を変えて再結晶化が進みます。無常観や転生といった観念に共鳴する作品は、「変わりながらも存在し続ける世界」を表現しています。
3人の作品には「誰かがいた気配」や「何かがあった気配」が見て取れ喪失感さえ感じられますが、その痕跡を受け止めることでどう生きるかを私たちに示しています。
なお、会期中の2月22日15時から、ユダヤ教研究者の市川裕氏(宗教学者・東京大学名誉教授)をゲストに迎え、展覧会参加作家の中澤安奈とトークイベントを開催いたします。中澤の制作に密接不可分な信仰について対談いたします。是非会場へお越しください。
中澤安奈
1988年横浜市生まれ、神奈川県在住。2012年東京藝術大学美術学部彫刻科卒業、2014年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。キリスト者としての信仰を軸に、創造主に会う瞬間を待ち望みながら石彫や木彫を作り上げる。2014年東京都知事賞、2018年第14回大分アジア彫刻展優秀賞、2022年第71回神奈川文化賞未来賞。主な個展に、2016年「未だ見ぬ知へ」ギャルリー志門(東京)、2022年「祈りの淵から」大塚美術(東京)など。
カミラ・テイラー
1981年カリフォルニア州生まれ、カリフォルニア州ロスアンゼルス在住。2006年ユタ大学ソルトレイクシティ校美術学部版画専攻卒業、2011年カリフォルニア州立大学ロングビーチ校美術大学院版画専攻修士課程修了。集団がもたらす帰属感や喪失感といった相反する感情を、モノクロームの版画や陶器という手法を通じて内省的に作り上げる。主な個展に、2020年「Your Words in My Mouth」Track 16ギャラリー(カリフォルニア州)、2024年「The Knot」ランカスター美術歴史博物館(カリフォルニア州)など。
宮永愛子
1974年京都府生まれ、京都府在住。1999年京都造形芸術大学美術学部彫刻コース卒業、2008年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。日用品をナフタリンでかたどったオブジェや、塩、陶器の貫入音や葉脈を使ったインスタレーションなど、気配の痕跡を用いて時を視覚化する作品で注目を集める。2013年「日産アートアワード」初代グランプリ受賞。主な個展に、2012年「宮永愛子:なかそら―空中空―」国立国際美術館(大阪)、2017年「みちかけの透き間」大原美術館有隣荘(岡山)、2019年「漕法」高松市美術館(香川)、2023年「詩を包む」富山市ガラス美術館(富山)など。