坂本夏子: Tiles | Signals — unexpected dimensions
このたびKanda & Oliveira では、坂本夏子の個展「Tiles | Signals ─ unexpected dimensions」を開催いたします。坂本にとって4 年ぶりの個展となる本展では、油彩の大作から小品まで、そしてドローイングや立体など、あわせて100 点ほどの新作で構成された個展となります。
坂本は、絵画を描くことによって「まだ無い世界」を追い求めてきました。
彼女の制作活動に一貫しているのは、描くことの方法論に対する強い意識です。初期から継続的に描かれてきた「タイル」は、坂本の絵画に欠かせない重要なモティーフです。さらに2019 年に発表された作品では「シグナル」という新たなモティーフが登場し、それまでの坂本の絵画やその制作の方法論が大きく変わる契機となりました。従来の坂本の作品に不可欠であった人物像(少女)が姿を消し、彼女の絵画はより抽象化を遂げ、次なる展開を予感させました。
そして今回、坂本は「まだ無い世界」を描くための方法論的な実験をさらに推し進め、多様なものにしています。この個展で発表されるさまざまな大型の絵画では「タイル」と「シグナル」が掛け合わされ、これまでにない驚くべき幅のある作品群の展開が可能となっています。大作の制作の傍らで生まれた、個々に実験性の高い立体や小作品などとともに、まさに「まだ無い世界」が広がる展示となります。つねに挑戦的な制作の実験をやめない坂本の最新作の数々を是非ご覧ください。
「Tiles | Signals ─ unexpected dimensions」にむけて
気がつけば、17 年ものあいだキャンバスに油絵具のタイルを並べていますが、わたしにとって絵を描くこ とは、今も不自然で不自由な行為のままです。自分の心地よさと、絵が自由であることは、まるで関係が ありません。でも、絵を描くことでしか、後戻りできないこの現実をわたしは考えられない。だから、生 きることは自由をもとめて描くことでもあります。わたしがそうするには、描くためのあたらしい方法が いつも必要です。
そちら(未来)でも、絵を描くことは、まだ無い世界にふれる方法ですか? 最近は、あなたの影をたくさ ん呼び込める絵画の次元はどういうものだろうと、ずっと考えています。あなたは予期しえず刻一刻とす がたを変えてしまうけれど、過去と今のあいだに因果があるのなら、今は未来の影をいくつも内包してい るはずで。それらをなんらかの色やかたちで抽出することは、とらえることができない「今」の位置をは かる手がかりになるのではないかと思えてしまいます。
そして、未来の影としてあらわれるシグナルたちを、どこかに送信してみたくて。
2023 年5 月
坂本夏子
また、本展に合わせて制作された冊子も7 月1 日よりギャラリー内にて発売いたします。新藤淳氏とのメールによる往復書簡も収められており、坂本の絵画制作の方法論の深化を理解するために必読といえます。